永江社労士オフィス Q & A  労務相談 本文へジャンプ
Q 出張のときの移動時間は、労働時間になりますか


Q

出張のときの労働時間と残業代はどのようにしたらいいでしょうか。
従業員が会社の了解のもとに、自宅から出張に行き、自宅に帰りました。
自宅を出発した時間から、自宅に帰るまでの時間を
マルマル、労働時間として、残業代も払ってほしいとの請求がありました。
自宅を出たのが午前6時30分、自宅に着いたのは午後11時30分でした。
そして、自宅を出てから出張先に着くまでには片道3時間、往復6時間かかります。
通常の通勤時間は30分ほどです。
仕事先に着いたのが午前9時30分、
仕事を終えて、仕事先を出発したのが8時30分です。
出張先の職場での休憩時間は1時間30分でした。


A

まず、自宅出発から、帰宅までの時間を、性質ごとに分けてみましょう。
移動時間が行き帰りで6時間。
出張先で仕事に従事した時間が
9時間30分、休憩時間が1時間30分となります。

ここで、問題となるのは移動時間を労働時間として
賃金と残業代を支払う必要があるのか、ということですね。

実は、出張のときの移動時間については、労働時間とするのかどうかについて、
労働基準法などに、明確な規定はありません。

労使間でトラブルをおこさないためには、
就業規則(出張・旅費規程等を含む)や労働協約で、キチンと規定する必要があります。

そこで、考え方ですが、まず裁判例をみてみましょう。
いずれも、地裁の判例ですが、

多くは出張のときの移動時間は労働基準法で規定する労働時間ではない。
労働者を拘束している時間ではあるが、
職場に通勤する時間であり、労働をしているわけではないので、
労働時間にはふくまれない、としています。

あるいは、勤務時間中の休憩時間と同じ性質の時間であり、
労働時間にはあたらない、としています。

拘束時間ではあっても、その時間中は目的地に着きさえすればよく、
寝てても、遊んでいてもよい時間だから、という理由をあげています
(S49. 1.26 横浜地裁川崎支部 昭和48(ヨ)142等 日本工業検査時間外手当請求事件
/(24.12.15基収3001、34.7.15基収2980)、など)。

なお、一旦、会社へ出社し、途中で出張、仕事を終えて帰社した場合は、
判例は、出社した時間から帰社した時間までを、労働時間としています。

学校行事の修学旅行の引率について、業務命令であり、労働時間であるとする判例や、「手待ち時間」と同じ性質の時間とみて、労働時間とする学者の説もあります。

寝てても、遊んでいてもいいケースというのは、
移動手段が公共交通機関=列車・バスのときでしょう(@のケース)。
しかし、会社所有の車で移動するケース(Aのケース)も、当然あります。
そのとき、同僚を乗せて行ったり、仕事で使う荷物や機具を運んだりしたケースでは、
明確に労働時間である、という判決がでています。

また、労使が合意して、
通勤に使う従業員所有の自家用車で出張などというケース(Bのケース)もあるでしょう。

では、具体的には、どうするのかについて、
私(永江)なら、こうするという一例をあげてみます。

判例を参考にしつつ、従業員にも納得・合意してもらえる規定にする、
というのが基本的態度です。

自宅を出発し、仕事を終えて自宅へ直接帰る場合(直行直帰)で、
@のケースは、出発から帰宅(あるいは帰社)までの時間が
8時間(所定労働時間)以内なら、出発から帰宅(帰社)までの時間を労働時間とする。

8時間(所定労働時間)を超えた場合、通常の通勤時間を足した時間までは、
8時間(所定労働時間)の労働とする。

さらに、それを超えた時間については、
移動時間に相当する時間に比例して、相応の手当をつける。

A、Bのケースは、労働時間とする。

Bのケースは、ガソリン代と相応の自家用車使用手当をつけることは当然です。

そして、どういう手段で、どういう経路で、移動するかを、指示する権限が
会社にあることは当然ですし、従業員本人に任せるにしても、
会社として、そのことを了解し、会社が責任を持つべきです。

いずれにせよ、出張の業務を完了するのに、
労働者が通常の通勤時間と勤務時間を超えて、拘束されることとなるときは、
それに相応する手当を出すべきでしょう。

年次有給休暇消化の順番は「当年発生分から先に」としても
違法ではありませんか?


年次有給休暇の使用は、当年発生分から(繰越分ではなく)としても
違法ではないでしょうか。


問い(Q)

年次有給休暇は、当年発生した分に前年度の未消化分を加えた日数分の権利が
労働者にはありますね。
そこで、その消化の順序ですが、
まず、当年分から消化するようにしても違法ではないでしょうか。


お答え(A)

結論だけを言えば、違法ではありません。
但し、これまでは、繰越分からの消化を認めていたが、
これからは当年発生分から消化することにするのは、
労働者の合意がない限り、労働条件の不利益変更として認められないでしょう。
裁判の争いになっても、敗訴となるでしょう。

それでは、@法律はどう規定しているか、A会社の発展という点でどうすべきかを
みていきたいと思います。

@法律の規定

労働者が有した年次有給休暇の権利については、
その消滅時効は(権利発生から)2年間とされています。
その根拠条文は、
「この法律の規定による賃金(退職金を除く)災害補償その他の請求権は二年間、
……行わない場合においては、時効によって消滅する。」(労基法115条)です。

ですから、有給休暇は、その発生から2年間、すなわち、翌年度末まで有効です。

そうなりますと、労働者は、繰越分から使いたい(翌年に持越せる分を残したい)、
経営者は、当年分から消化させたい(翌年持越し分を減らしたい)と考え、
ご質問のことが問題となるわけです。

では、法律は、この問題について、どう規定しているでしょうか。
結論を言えば、労働基準法には、この点についての規定は何もありません。
さらに、この問題につての判例(裁判所の判断)も、ないようです。

法令や判例に何の規定もなければ、この問題は、
就業規則や労働契約、労働協約の規定に従うことになります。
すなわち、就業規則・労働契約・労働協約に規定があれば、その規定が有効となります。

では、それらに規定がない場合はどうなるのか。

法律論として考えると、この場合、
労働基準の趣旨(労働者の権利の保護)から判断するか、
法の一般法である民法の規定を参考に考えるかの二説あります。

私が支持したい説は、労働基準法の趣旨から判断する説です。

「前年度のものであるか当該年度のものであるかについては、当事者の合意によるが、
労働者の時季指定権行使は繰越し分からなされていくと推定すべきである。
(弁済の充当に関する民法489条第2号を引用して、当年の年休の時季指定と
推定すべしとの反対説があるが、同号による必然性はない。)」
(菅野和夫著「労働法 第六版」)。

この説によれば、労使間に特に取り決めがない限り、
繰越分から使われていくことになります。
すなわち、労働者は、
時効にかからない分から使用したい(できるだけ多くの有給休暇が欲しい)と、
当然考えますから、繰越分からの使用を求めます。
これが労働者の権利を保護する立場です。

反対論である「当年分から消化させたい」という立場は、
民法の債務者の弁済の順序の規定(民法四八八条、四八九条)を適用しようとします。
この民法の規定は、
債務者の利益(有給休暇を与えなければならない債務を負っている
使用者・経営者の利益)を優先する規定になっています。

どちらが法律論として正しいか。
私見を述べます。

労働基準法の趣旨(労働者保護の立場)が、より進歩的・民主的でしょう。
すなわち、先にも書いたように、労働基準法(労働法)は、
民法の契約自由の原則を、労働者のたたかいによって修正したものです。
ですから、民法は労働基準法の一般法であり、
労働基準法は民法の規定を具体化した特別法です。

法律の有効順位は、「特別法は一般法に優先する」です。
法律を適用するとき、明文の規定があれば、
つねに労働基準法の規定が民法の規定に優先します
(労働基準法の規定と民法の規定が矛盾するときは、
労働基準法の規定が有効となります)。

この考えから、労働基準法に「繰越分から消化する」との明文規定はありませんが、
労働基準法制定の趣旨(労働者の権利の保護)が、
民法の規定(債務者=経営者の利益になるものから
債務=この場合、有給休暇を弁済=付与する)に優先するとすべきだと思います。

また、通常も、「繰越分から消化していく」ことを認めている会社が多いようです。

A会社の発展という点から

会社の成長・発展にとっても、
現代では、従業員が活き活きとその持つ能力を発揮できる
職場環境を整備している会社でなければ、持続的な成長・発展は望めないでしょう。
その意味でも、「繰越分から消化する」ことを認める見識が、
長い目で見て会社の成長・発展にプラスになると思います。


Q 法定休日と法定外休日には、どんな違いがありますか?


法定休日と法定外休日には、どんな違いがありますか

問い(Q)

休日に、法定休日と法定外休日というのがあると聞きましたが、どういうことでしょうか


お答え(A)

休日に、法定休日と法定外休日があるということなど、一般には、よく知られていません。

しかし、就業規則や労務管理、割増賃金の問題などの労働問題を処理するにあたっては、たいへん重要な意義を持つ違いが、この両者にはあります。
労働基準監督署やハローワークなど行政官庁への諸手続きをする際にも、
留意しなければならないことです。


休日について、労働基準法は、次のように定めています。

1)毎週少なくとも1回の休日を与えなければならない(35条1項)。
2)4週間を通じて4日以上でもよい(35条2項)。

この規定による休日を法定休日と言います。
すなわち、日曜日など毎週1回の休日、
あるいは、4週間を通じて4日の変則的な休日が法定休日となります。

法定外休日とは、それ以外の休日です。
すなわち、週休2日制の土曜日など日曜日以外の休日や祝日の休日、
年末年始や夏季(お盆)、5月のゴールデンウイークの休日など、
法定休日以外の休日が法定外休日となります。

もうひとつ、休日について、就業規則等に定めるときに、
守らなければならない規定があります。
それは、労基法の次の規定です。

1)労働時間は一週40時間(休憩時間を除き)以内(労基法32条1項)
2)一日8時間(休憩時間を除き)以内(労基法32条2項)

これは、労働時間についての規定ですが、
これを守るためには、例えば勤務時間を一日8時間とすると、
一週間に5日の労働日(2日間は休日となります)で労働時間は40時間となりますので、
就業規則では、週2日の休みを確保する規定にしなければなりません。

ですから、例えば、日曜日と土曜日を休日と就業規則に定めることになりますが、
このうち1日(例えば日曜日)は法定休日となり、
残る休日・土曜日が法定外休日となります。


この2つの性質の違う休日は、主に2つの点で、その取扱いに違いが生まれます。

1つは、休日に労働させた場合における割増賃金です。

割増賃金の額は、時間外労働は2割5分増(労基法37条1項)、
(法定)休日労働は、3割5分増(割増賃金令)です。

ですから、休日出勤の場合、割増賃金は3つのケースが考えられます。

日曜日と土曜日が所定休日(就業規則に定められた休日)、
そのうち日曜日を法定休日、としましょう。

日曜日(法定休日)の出勤のときは、3割5分の割増が必要です。

土曜日(法定外休日)の出勤の場合、2つのケースが考えられます。

その週の労働時間が40時間を超えたとき、
その超えた時間分は時間外労働として2割5分増としなければなりません。

他の日を振り替え休日としたり、欠勤などがあり、
土曜日に労働しても、その週の労働時間が40時間以内におさまる場合には、
割増賃金の支払いは必要ありません。

すなわち、法定休日の割増は3割5分、
法定外休日の割増は、普通の時間外労働の規則と割増率で処理する、ということです。

2つは、労働者を一週40時間、一日8時間を超えて労働させるには、
労働基準法が規定する協定を労使で結び、
監督署に届出ることが義務付けられています
(労基法36条に定められているので、三六(サブロク)協定と呼ばれています)。

この協定を結んで、週40時間、一日8時間を超えて労働させたときは、
規定の割増賃金を支払うことになりますが、
割増賃金を払えば労働させることができます。

しかし、少なくとも4週間に4日の休日は、絶対的に与えなければなりません。

すなわち、上記の例の場合、土曜日(=法定外休日)は割増賃金を払えば、
労働させることができ、振替休日も与えなくても違法とはなりません。

しかし、日曜日(=週1日の法定休日)に労働させたときは、
3割5分の割増賃金を支払うとともに、
4週間を通じて4日の休日を確保するために
代休を与えなければならないということです。

 
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